えきたび ~ローカル線を訪ねる鉄道旅~

ローカル線を旅して降りてきた駅についてを書いた紀行ブログです。基本的に写真は添えず、短めな文で綴っていきます。

根室駅 (根室本線 - 北海道)

雪に包まれた小さな岬が右手に現れた。少し高い位置から崖を作って、海岸へ続く斜面まで全体が真っ白な姿で海に突き出す様は、いつかテレビで見た北極あたりの氷河の陸地を連想させた。
 岬を過ぎるとカニの名前の港町と駅が現れる。港は小さく、駅はもっと小さい。線路はやがて根室の市街地へと入っていき、日本最東端の駅である東根室を過ぎると、大きく左にカーブして終点の根室に着いた。

 根室本線の終着駅。線名にもなっている駅なのに、ホームは一番線しかなく、駅前は繁華街から離れた台地にあるのでひっそりとしている。
 まだ日が少し高いので、駅前からバスに乗って納沙布岬を目指した。東の最果ての町から更に東に延びる道はすぐに町中から郊外になり、そして海岸線の寂しい風景になった。
 数名しか乗っていなかったバスは、歯舞(はぼまい)という所で小学生を数人乗せ、数分で小学生たちを降ろしていった。子供の足で歩くには少し遠い距離だから通学バスになっているのだろう。

 右手には荒涼とした海、左手には低い丘が続く人気が感じられない道を行く。そんな人工的な手触りの少ない道の先に灯台が見えてきた。私は納沙布岬灯台の前で降りそびれて、一つ先のバス停で降りた。人家の少ない所だから次のバス停までがとても遠い。
 岬を回り込んだので、道の脇に見えている海はオホーツク海に変わった。空は晴れているが吹く風は強烈に冷たく、海は濃紺の水面を静かに横たえ、海岸は白く覆われている。漁村と呼べば良いのか、家は点在していたが、歩いている人は勿論いないし、走り過ぎる車もない。

 十五分ほど歩いて、ようやく灯台の所に着いたが、冬季だから施設はほとんど閉まっている。私は財布の中に小銭がない事に気づき、一軒だけ開いていた土産物屋兼食堂で一万円札を出して飴を買った。「バスに乗るんだね」とレジのおばさんは小さく微笑んだ。寒風で胸が苦しく痛くなっていた私は、痛みを忘れて照れ笑いを浮かべた。

 夕刻、駅の近くにあるホテルに着く。旅館みたいな建物なホテルの、フロントと呼ぶより玄関ロビーと呼びたくなる所で女将さんに挨拶がてら「今日は寒いですね」と言葉をかけたら、「今日は暖かいほうですよ」と苦笑されながら宿泊カードの紙を渡された。私は頭の中で「今夜は冷えそうだから花咲ガニのカニ汁を食べよう」と思案する。根室は花咲ガニの本場である。

 翌朝、一番列車に乗って根室を出発すると、線路の周りに広がる原野がオレンジに染まり始めた。ここまで燃えるような鮮やかな空と、その空の色に染まる地面は見たことがない。遥か遠くまでオレンジに染まる風景に包まれながら、銀色に赤い帯の気動車はゆったりと一日の始まりを走る。