えきたび ~ローカル線を訪ねる鉄道旅~

ローカル線を旅して降りてきた駅についてを書いた紀行ブログです。基本的に写真は添えず、短めな文で綴っていきます。

琴電屋島駅 (高松琴平電鉄志度線 - 香川県)

 四国の香川県高松琴平電鉄(ことでん)という私鉄電車が走っている。地方私鉄でありながら、琴平線長尾線志度線と三路線も営業して頑張っている。その中でも志度線は途中に瀬戸内海を見ることの出来る区間があり、郊外型電車な風景の多いことでんの中で最もローカル線の気分が味わえる路線である。

 ある夏の日、私はJR高徳線志度駅を降りて琴電志度駅に向かった。地図で見ると、志度線高徳線は近い所を並行して走っていて、志度駅から琴電志度駅もほど近い。住宅地に埋もれるように突然現れた琴電志度駅から、リベットがたくさん打ち付けられた古びた電車に乗った。窓は大きく、窓の外側に転落防止の鉄棒が横向きに取り付けられている。これは元京浜急行の230形電車だ。色は赤に白帯から、上がクリーム下は赤という塗装に塗り替えられ、正面には貫通扉が増設されているが、この窓の大きいデザインは、まさに京浜急行の電車である。
 走り始めて少し経つと右手に海が見えてきた。線路は海岸線のぎりぎりにあるので、海に向かって向き合うような位置で座っている私からは堤防が見えず、まるで海の上を走っているように見える。戦前生まれの旧型電車は冷房などないので窓はあちこち開け放たれ、私の斜め前に座っている少女の髪を潮風が揺らしていた。

 私は終点まで乗らず、琴電屋島駅で降りた。あたりは静かな住宅地で、ひっそりと静まり返っている。源平合戦の舞台になった屋島は、平野部に山がせり立っていた。駅を出て山を見ると、緑に包まれた山肌に土の色の細い筋が山頂の方に向かって下から伸びている。
 緩い坂道を歩き、山に近づくにつれ、麓に立つコンクリートの朽ちかけた建物が大きくなってくる。そばまで行くまでもなく、その建物がケーブルカーの廃駅だと気づいた。あの筋の頂まで上がれば、きっと瀬戸内海が一望だったことだろう。
 気を取り直して琴電屋島駅から来た道を引き返す。途中に民家と区別のつきにくい佇まいの小さな食堂があった。玄関が開け放たれた店内で古びたテーブルに座り、注文した讃岐うどんを待つ。静かな空間に、随分と前から使われているであろうと思わせるデザインの扇風機の音が微かに響く。