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えきたび ~ローカル線を訪ねる鉄道旅~

ローカル線を旅して降りてきた駅についてを書いた紀行ブログです。基本的に写真は添えず、短めな文で綴っていきます。

鰺ヶ沢駅 (五能線 - 青森県)

 一番景色の良いローカル線はどこですか?と聞かれたら答えに窮するが、もっと具体的な質問だと答えを探しやすい。たとえば、寂しい眺めのローカル線は?とか、或いは海の陰影をじっくり味わえるローカル線は?と問われれば、五能線と答えたい。五能線青森県の川部と秋田県東能代を結ぶ百キロ以上の全長を誇るローカル線である。
 初めて五能線に乗った時は「ノスタルジックビュートレイン」という展望デッキ付きの観光列車に乗った。ディーゼル機関車が牽引する客車列車で、それなりに楽しかったが、やはりローカル線は地元の人たちと同じ空間で味わいたい。二回目は普通列車に乗った。いずれも雪の残る3月の話である。

 川部から乗った初回とは逆に東能代から乗った私は、岩館、深浦と途中下車をしてきた。正しく言えば、それぞれの駅までしか行かない列車だったのだ。五能線は距離が長いので全線を通して走る列車は少なく、本数そのものも少ない。
 駅から下った林の小道の先に小さな港があった岩館で粉雪が降ってきたが、青森県に入ると雪は止んできた。左窓には紺色の日本海が白波を浜に打ちつけている。沿線は人家は少なく、駅間距離は少し長い。駅が近づいてくると、強い風に身を寄せ合うように、こじんまりとした集落が現れる。乗る人も降りる人も少ない。

 北前船の港町深浦で泊まろうと思っていたが、結局宿を絞りきれず、もう少し乗っていたいと五能線の旅を続けた。
 深浦を出た列車は僅かな乗客を乗せて日本海沿いを走る。太陽はあっという間に紺色の海に吸い込まれ、いつしか私の乗っている車両には、私と斜め向かいのボックスに、こちらに向いて座っている女子高生だけになった。
 暗闇の中を列車は走る。左窓には海が広がっている筈だが、黒い幕が張られたように風景が動かない。やがて微かな街灯と家の灯が現れると駅である。現れるどの駅も、まわりの集落も、灯が少ない。女子高生は憂い気な表情で、ぼんやりと窓外を見つめている。彼女にとっては日常の風景なのである。

 ひたすら暗闇と時折現れる小さな集落を眺めながら、一時間ほどで鰺ヶ沢(あじがさわ)に着いた。雪が降りしきり、駅前は雪が高く積もっている。誰もいない少し古びたローカル駅で電話をかけて宿をとる。場所を尋ねたら「駅にいるなら、そこから見えますよ」と女将さんに言われ、薄暗く小さな駅前の片隅に一夜の居場所を見つける。
 女将さんの赤い傘を借りて、勧められた近くの居酒屋に行くと、店内は津軽弁が飛び交っていた。店主は私には標準語を使ってくれたが、回りのやりとりはほとんど聞き取れないまま、異郷の雪の夜の一人酒を楽しんだ。
 寒さに背中を丸めて宿に戻ると、女将さんが手前の部屋で確定申告の書類を書いていた。「今の季節は泊まるお客さんはほとんどいないよ。でも、たまにお客さんみたく、雪が見たいからと来る人がいますよ」と笑顔で言われる。
 部屋に戻ると、テーブルに差し入れのリンゴが置かれてあった。津軽はリンゴの名産地であり、五能線鰺ヶ沢~川部の沿線はリンゴ畑が広がっている。