えきたび ~ローカル線を訪ねる鉄道旅~

ローカル線を旅して降りてきた駅についてを書いた紀行ブログです。基本的に写真は添えず、短めな文で綴っていきます。

若桜駅 (若桜鉄道 - 鳥取県)

 鳥取と津山を結ぶ因美線(いんびせん)は、他の中国山地を縦断する路線と比べると深い山間を走る風景ではなく、山と山の間の平地に狭く広がる農村地帯を走る路線である。年式の古い木造駅舎を持つ駅が続き途中下車欲が高まるが、私はその気持ちを抑えながら郡家(こおげ)駅とやってきた。

 岡山県側は山の麓の農村風景だったが、鳥取県に入ると少しずつ平野になっていった。郡家はその境目のような位置にある。
 駅の周りを歩いていると、突然激しい雨に見舞われた。慌てて軒下に避難したが結構濡れる。雨足が弱まったところで急いで駅に戻り、ベンチで一休み。これから乗るのは若桜鉄道という元国鉄若桜線の生まれ変わりである第三セクター鉄道だ。ちなみに、若桜は「わかさ」と読む。
 ホームには気動車が二両連結で停まっている。白を基調に水色と赤のラインの入った小ぶりな気動車は、「さくら3号」と「さくら1号」と正面に書かれてある。若桜鉄道気動車にはWT3000という形式が付いていて、この車両はWT3003とWT3001という番号が振ってある。つまり、この形式の三号機と一号機ということだ。地名にもなっているくらいなので、沿線は桜の名所があるのかもしれない。
 さくら3号と1号のコンビは因美線で通ってきた風景を巻き戻すかのように、農村地帯へ入っていく。さくら号は窓が開く気動車なので、夏の夕方の山の風で、雨に濡れた髪を乾かした。
 現れる駅はどれも古めかしい。国鉄型時代の面影を残す木造駅舎が渋い。駅舎の壁も柱も、年季の入ったこげ茶色になっている。

 終点の若桜駅も築五十年は越えてそうな趣の木造駅舎だった。清掃が行き届いた構内は、この鉄道が地元の人たちに愛されている事を強く感じさせるものだ。駅舎内では若桜鉄道グッズも売られている。硬券入場券とクリアファイルを購入した。
 駅前を歩いてみると、すぐに国道に出た。国道といっても、クルマが二台どうにかすれ違えるくらいの細い道で、その道の両脇に木造の軒を連ねた商店や格子戸の建物が並んでいる。この道は、かつての美作と因幡を結んでいた街道の名残りである。
 昔の街道の面影を今に残す国道から裏道に入ると、寺院が現れた。こういう町の中に溶けこむように建つお寺の境内に居ると、自然と心が落ち着く。
 お寺を出て裏道に戻って歩き始めると、すれ違った子供が挨拶をしてきた。この子だけなく、他の子たちも同様に挨拶をしてくる。夕日に染まり始めた町、裏道の家並みが穏やかな暖色に変化していく。駅前に戻ると、歩道に掲示されていたスローガンに「挨拶を大切にする町」とあった。